そのアクシデントは一瞬にしておこりました。
作品がほぼ完成していて、いよいよ明日はオープニング!という
準備最終日の午後の出来事でした。
会場構成を担当するアートディレクターが私の作品の向きを
90度回転させたいと言い出しました。
私としてはその向きでも良いとは思うのですが、作品は完成して
いてテグス糸の一本一本はフィックスされた状態なので動かすのは
大変危険なのではということを何度も話しました。
でも「大丈夫、我々はプロフェッショナルだからゆっくり安全に動かすから」
その言葉を信じて見守ることにしました。
(アーティストに作品の場所や向きを決める権限はないのです。)
しかし作業を開始した数分後・・・・一瞬のミスで地上7mに上がっている
鉄製の2本のバーのうち一本が落下。
あっという間のことでした。
(今考えれば、鉄製のバーが人に当たらなかったことが何よりでした。)
でもその落下の反動で蝶がついたテグスが再起不能なぐらいグチャグチャ
に絡んでしまいました。
私は正直、呆然となりました。
その場はシーンと静まりかえっていました。
その時、この会を取り締まるオーガナイザーの女性が私を気遣い
「とにかく今は外に出てお茶を飲んで考えましょう。」と
気分を変えるため私を外のカフェに連れだしてくれました。
心配してついてきてくれたアンダと三人でお茶を飲んでいるうちに
少し冷静になったのか私はあることを思い出しました。
このインスタレーションはもともとは3本のバーを使った構成を考えて
いましたが、実際に会場に2本目が上がったときにその様子を見て
3本目は蝶の量感が出すぎてバランスが悪いと思い、3本目のために
用意した蝶はすぐに使える状態でそのまま保管していました。
「そうだ、あれを使えば、短時間でできるかも・・・」
アンダにそのことを話すと
「私たちもたとえ徹夜になってもいっしょに作業するから大丈夫!」
と励ましてくれました。
再び会場にもどるとスタッフの人達が一生懸命絡んだ糸をとろうと作業して
いました。
新しい蝶で作り直したほうが早いこと、心配しなくて良いことを話し、
早速、作業にとりかかりました。
もうすでに時刻は夕方にさしかかっていたので怒ったり泣いたりしている
時間は一秒もありませんでした。
そして実際に手際の良いアンダとベスナが全面的に協力してくれたおかげ
でなんとか展示出来る状態までもっていくことが3時間程度でできました。
本当にアンダとベスナにはどうお礼を言っていいのかわからないほど
お世話になってしまいました。
でもその晩はアクシデントのおかげでおおいに盛り上がり、3人の
インスタレーション作品がそれぞれ完成したことをワインとチーズで
お祝いしました。
アンダが「私たちはサムライフレンズ!」
というので最初は「?」だったのですが
前の晩に茶道の話をしていてなぜ同じ茶碗で飲むのか?という話題になり
多分、昔の侍の人たちの心をひとつにするための大切なセレモニーでは
なかったのだろうか?と答えたことをは思いだし、アンダの表現したい気持
ちを理解することができました。
そしてそれは私も全く同じ気持ちでした。